はじめに
この記事では講談社の漫画雑誌「イブニング」に2013年から2018年まで連載された漫画を取り上げます。
土屋太鳳さん、芳根京子さんのダブル主演で映画化もされました。
江戸時代の怪談「累ケ淵」をベースに、醜いが故に愛されない女の情念を母娘2代に渡って描いています。
それでは本文にいきましょう。
主な登場人物
淵 累(ふち かさね)
本作の主人公。
海道与といざなの娘。
醜い容姿故に小さい頃から、いじめられていたが、小学生の頃、母の形見の口紅で、口づけした相手の顔と声を交換できることを知り、美しい容姿の女性の顔と声を交換して、持ち前の演技力で、完璧な女優となる。
作品では、主に丹沢ニナと野菊の顔と声で、卓越した女優となる。
野菊(のぎく)
累の異母姉妹。
母である淵透世そっくりの美貌を受け継ぎ生まれてきたが、その母そっくりの容姿ゆえに、出生届を出されず、生まれていないことにされ、実の父である海道与に亡き母の代わりとして、監禁され、性的虐待を受けてきた。
ある日、父親を撲殺し、屋敷から逃れ、売春をするうちに、偶然、累と出会う。
羽生田 釿互(はぶた きんご)
唯一、女優、淵透世の秘密を知る男。
一応、演劇の演出家らしいが…
淵 透世(ふち すけよ)
伝説の女優。
累の母親らしいが、彼女には秘密が…
いざな
羽生田と同郷の女性。
累そっくりの醜い容姿。
五十嵐 幾(いがらし いく)
累の高校の先輩。
累の二度目の顔を盗んだ相手。
累が演じた自分のせいで、長らく演技のスランプに陥る。
しかし、丹沢ニナの演技に感銘を受け、スランプを克服する。
そして、偶然にも咲朱とダブルキャストの主演となるが…
天ヶ崎 祐賭(あまがさき ゆうと)
野菊の買春客の一人。
学校の教師。
野菊の協力者となる。
丹沢 ニナ(たんざわ にな)
「眠り姫症候群」という病気のため、本人の意志に関係なく、眠りに落ちてしまう。
そのため、万が一のために、累との顔交換を承諾するも、自分には敵わない累の演技力に、自分がとって変わられる恐怖を抱く。
丹沢 紡美(たんざわ つぐみ)
ニナの母。
最初に娘の異変に気づく。
雨野 申彦(うの のぶひこ)
個性派俳優。
圧倒的な存在感を示す。
累とはニナの時に恋仲になる。
海道 凪(かいどう なぎ)
与の弟。
考古学者。
日紅の研究に、朱磐を訪れる。
用語集
形見の口紅
本作のキーアイテム。
口紅をつけ、口づけすることにより、相手の顔と声を交換する。
累の母の形見。
伝説の女優といわれた母も、どうやら、この口紅で他人の顔を奪っていたらしい…
朱磐(あけいわ)
羽生田の出身地であり、累の母もこの土地の出身らしい。
朱磐神楽(あけいわかぐら)
この土地に伝わる言い伝えを使った神楽。
醜い女神と美しい女神がでてくる。
日紅と月紅(ひべにとつきべに)
日紅はそのまま、口紅の事。
月紅は人間の血液を表すらしい。
劇中の主要舞台作品
「銀河鉄道の夜」 宮沢賢治
(正確には、これを演劇用に脚色したもの)
「かもめ」 チェーホフ
「サロメ」 ワイルド
「ガラスの動物園」 ウイリアムズ
「マクベス」 シェークスピア
「暁の姫」→「宵暁の姫」 羽生田 釿互(漫画オリジナル舞台作品)
あらすじ(ネタバレありです)
小学生
小学生の累は醜い容姿だが「私の母は淵透世」と言い張っていたため、クラスメイトからイジメにあっていた。
ある日、学園祭で「シンデレラ」をやる事になった累のクラスだが、クラスメイトはからかい半分に累をシンデレラ役にしようとする。
母の影響で女優に関心があった累は罠と分かっていても、その役を引き受けてしまう。
案の定、練習に参加させてもらえなかったり、嫌がらせを受けたが、持ち前の演技に対する執着心で劇を途中まで成功させる。
しかし、うまくいった時の報復を恐れたクラスメイト達により、主演の途中交代を画策されてしまう。
絶望した累は母の記憶を思い出し、役を交代する西沢イチカとキスをして、顔と声を交換し見事、劇を成功させる。
その後、学校屋上での争いにより、累は顔に傷を受け、イチカは屋上から転落死してしまう。
高校生
演劇部に入った累は照明係として活動するが、女優兼部長の五十嵐幾に部活後の台本読みを見られ、興味を持たれてしまう。
幾に親しくされ、友人だと思い始め、「いじめられていた者同士」だと思っていたが、その理由が美しい為と醜い為で、まるっきり違うことに気づき、累は再び口紅で顔を奪う。
「銀河鉄道の夜」を幾の顔で見事に演じきった累は、再び口づけすると顔が元に戻る事を発見した。
口紅の使用方法が不明な今は、再び顔の交換を行うのは危険だと感じ、累は演劇部を退部する。
丹沢ニナに化けて
母の法要で、以前の母の協力者であった羽生田釿互と出会った累は、次に変身する相手、丹沢ニナを紹介される。
「眠り姫症候群」という病に侵されているニナは、自分がいつ発病しても大丈夫なように代理を求めていた。
美しい顔を手に入れ、舞台に立ちたい累と自分の代わりに舞台に立てる役者を探していたニナの需給が合い、ニナ公認で、累の新しい女優生活が始まる。
新進気鋭の演出家、烏合零太演出のチェーホフの「かもめ」の舞台での活躍が始まった。
実は烏合零太への恋心から女優を続けたいと思っていたニナは、烏合零太と関係を深めていく累に警戒心を抱き始めていた。
ニナのマネージャーとして、累の顔で稽古場に顔を出すようになったニナは二人のキスするのを偶然にも見てしまう。
いつか夜に二人で会おうとすると感づいたニナは、累を欺き、ニナ自身の顔で烏合零太と夜に出会う。
翌朝、烏合零太に恋心を抱いていた累は絶望に打ちひしがれたまま、帰ってきたニナと会う。
累とニナの契約は終わりを告げたかに見えたが、ニナの眠り姫症候群が発病する。
ニナが眠っている間、累は順調に女優活動を続ける。
もう自分の居場所は、この世界に無いと悟ったニナはビルの屋上から飛び降りてしまう。
とっさにニナと口づけした累は、飛び降りたのは累だと世間を欺き、女優活動を続ける。
植物状態になってしまったニナは累に介護されながら、顔を使われ続ける。
野菊の登場とニナの死
その頃、淵透代の本当の娘、野菊が父親を殺害し、外の世界へと逃れる。
監禁同様の生活を送ってきた野菊は、お金を得る手段を知らないため、体を売り生活する。
その客の中の一人に演劇の舞台係の男がいた。その男の勧めで「淵透代の再来」と呼ばれているニナの舞台を観た野菊は、淵透代そっくりの容姿から累に声をかけられ、友人となる。
ある日、ストーカー化した客に追いかけられた野菊は累に助けられ、累の部屋に泊まる。
そこで、鍵のかかった部屋に外見は累である本当のニナを発見してしまった野菊は自分の母を思い出す。
客の一人、天ヶ崎に調べさせ、ニナの実母に会った野菊は昔のニナの演技を見て、入れ替わりを確信する。
こっそり、自分の家に戻った野菊は父親の残したメモから、口紅の秘密にたどりつく。
ニナの母から累の部屋の鍵を盗んだ野菊は寝たきりになった本物のニナにたどり着く。天ヶ崎の助言で寝たきりのニナと会話する方法を見つけた野菊はニナから「殺してほしい」と言われてしまう。
舞台「ガラスの動物園」を成功させた累を横目に、野菊は本物のニナを殺害し、累を罠に陥れる計画をくわだてる。
咲朱(さき)
本物のニナが死んでしまった累は絶望に陥るが、次に顔を使える女として野菊を思い出す。また、わざと累に存在を思い出させるように仕向けた野菊は二人の思い出の浜辺で再会する。
野菊の顔を利用しようとする累と、累を罠にかけようとする野菊。
二人の思いが絡み合い、渕透代の顔と累の演技力を持った女優、咲朱が誕生する。
〜マクベスまで
順調に女優としての名声を得ていく咲朱。
そして、ついに母、渕透代の最後の作品となってしまった舞台「マクベス」に挑戦する。
丹沢ニナの亡霊に悩まされるようになった累。
しかし、過去に母を救った海堂の言葉を野菊から言われ、立ち直る累。
累と同居し、自分の過去の話をして、羽生田と累の信頼を勝ち取る野菊。
共演の雨野にニナの面影を悟られるも、かわして、上演へとせまる。
大盛況のうちに初演を終えたマクベス。
そんな中、羽生田は累に一つの賭けを提案する。
マクベスの最終公演、野菊は楽屋に入り、口紅を処分して、偽の口紅と交換する。
野菊の計画ではちょうどカーテンコールの時に累は元の姿に戻るはずなのだ。
刻一刻と迫るその時間、予定の時間が過ぎても顔が変化しないと気づいた野菊。
少し前に羽生田から飲物をもらった野菊は眠気に襲われる。
眠りから覚めた野菊は拘束されていた。
羽生田には野菊の計画は感づかれていた。
羽生田と累の賭けは羽生田の勝ちに終わったが、累が勝った場合の条件である、
累の母、いざなについて話し始める。
いざなの過去
上京した、いざなは美しい女に惹かれるように劇場へとたどり着く、その女は淵透世だった。
劇場の掃除婦としての生活を始める、いざな。
風邪で熱をだした透世の代わりに、顔を交換し、舞台に上がるいざな。
舞台を周りに絶賛され、舞台の記憶がなく戸惑う透世。
いざなは透世に口づけの秘密を話す。
そこから、四年程、いざなが顔交換した透世が舞台に立つが、その評判を聞きつけ、新進気鋭の舞台演出家、海道与が現れる。
海道に引き抜かれた透世は、大きな舞台で頭角を表し、ついに海道と結婚する。
しかし、二人の間に生まれた子供が、どちらにも似ず、あまりに醜かったため、海道は透世の身辺調査をして、透世といざなが顔を交換しているのにたどり着く。
怒った海道は、いざなと累の親子を叩き出す。
そして、本物の透世と同居を始めた海道は、透世の演技力の無さに絶望する。
結局、いざな親子を連れ戻した海道は再び、透世と顔交換をしたいざなと舞台を構築する。
マクベスでおかしくなりかけたが、乗り越えるいざな。
しかし、顔の永久交換の方法を実行しようとしたいざなは、万一失敗した時に娘を頼むと羽生田に頼む。
そして、海道を撒いて、娘の累と逃げようとしたいざなを海道が連れ戻そうとする。
その時、累を川へ突き落とすが、累を助けようといざなも川へ飛び込む。
娘の累を助けて、いざなは川に溺れ死亡した。
過去を思い出した累は決意を新たにするのだった。
野菊奪還まで
次の舞台に立つ累は高校生の時の先輩、五十嵐幾とのダブル主演となる。
五十嵐は累に顔を交換されて演じられたジョバンニのせいで、演劇に対して自信を無くしたが、その後、累が顔を交換した丹沢ニナのサロメを観劇し復活していた。
累のことを意識しすぎる五十嵐を心配して、演出家の藤原は累に五十嵐と一緒にプラネタリウムを見に行くように指示する。累に「あなたはまわりの星を輝かせる」と言われた五十嵐は周りの出演者などにも気を配ることを思い出す。
一方、野菊を失った天ヶ崎は五十嵐に接触する。
順調に公演に向けて演技を開花させる累だったが、本番前のゲネプロの後、天ヶ崎が野菊を奪還する。五十嵐は天ヶ崎の協力者だった。
行方不明になる累。
旅の末、母の最後の言葉を思い出す。
累が藤原と接触した事を知った羽生田は、累を待ち伏せする。
また、五十嵐は野菊に累を探そうと持ちかける。
累と母であるいざなの故郷、朱磐の廃墟を巡り、過去を話す羽生田。
その後、五十嵐と組んで累を誘き出す野菊。
そこに入ってくる羽生田。
お互いの殺意が交錯する中、意外にも累は口紅を野菊に渡す。
最後の舞台 ~咲朱として~
羽生田がいざなの生前に書き始めた脚本「暁の姫」を最後の舞台にすると宣言した累は、対で演じられる醜い女の役に五十嵐を指名した。
復帰後、全く演技の感が戻らない累に違和感を覚えた羽生田と野菊は累が口紅を使った顔の永久交換の方法を知ったのでは、と仮説を立て、二人でその方法を探りにいく。
累と野菊の二人の父親、海道与の弟、凪が残した手記から、羽生田は永久交換の方法にたどり着く。
一方、累は醜い者の心を理解してくれた五十嵐に感謝しつつも、己の限界を感じとり、役の降板を告げる。
母親の幻覚を見るようになった野菊を拘束し、累との顔の永久交換を無理矢理行おうとする羽重田に、累は、自分を助けて亡くなったのは本物の淵透世だと告げる。
かつて、海道に言われ、いざなを殺した羽生田は自暴自棄になる。
羽生田に累は、かつてのいざなも醜い女の役を演じたがっていたと告げる。
素顔で演じる
ついに累は素顔のまま舞台に立つ。
最初はうまくいかなかったが、徐々に演技を取り戻し、公演3日目の最終日には喝采を浴びるようになる。
全てを終えた累は、野菊の連れてきたニナの母と会う。
娘の復習を願う母は止めにはいった野菊を刺し、累と自分の顔を永久交換して、自殺する。
ニナの母となった累は、累を殺害した罪を背負い、ニナの母として生きる。
その事を知らない羽生田は半狂乱となる。
五年後、同じく永久交換の事を知らない野菊は天ヶ崎と共に暮らしている。
そして、羽生田はニナの母として生きる累の家の前に立つ。
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小説
「誘ーいざなー」
累の母、いざなの話
映画
土屋太鳳さん、芳根京子さんのダブル主演。
高校生を卒業してからの話。
丹沢ニナとのエピソードのみとなる。
劇中の「サロメ」のダンスは圧巻。
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