未完の傑作、凄ノ王(ネタバレあり)

漫画
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概要

永井豪の週間少年漫画における連載作品の最後に当たる「凄ノ王」。(「週間少年マガジン」です)

いかにも打ち切りのラストでしたが、作者の構想は元からここまででした。

では、この未完の傑作について語っていきましょう。

登場人物

朱紗 真悟(すさ しんご)
本作の主人公。
運動も勉強も並で喧嘩などしない性格であった。
高校入学と共に色々な事件に巻き込まれていく。

雪代 小百合(ゆきしろ さゆり)
本作のヒロイン。
主人公に惚れている。色白の美少女。
酷い目に合いっぱなしですが‥

美剣 千草(みつるぎ ちぐさ)
超能力クラブ部長。
ボンキュボンの美女。
テレパシスト。テレポーテーションもできる。
美剣一族の娘。

瓜生 麗(うりゅう れい)
高校生ながら、会社や不動産を持つ天才児であり、生徒会長。
自分の念を込めたネックレスで超能力者を作り、手下にしている。

クイーン カーミラ
不良グループ、ノスフェラトウの首領。
金髪女性で超能力を使う。
美剣は正体に気づいている?

九頭木 剛(くずき ごう)
学校の応援団と部活動の組織、部団連合の会長。
目を開く時や口を開ける時に機械音のようなものがする‥

合田(ごうだ)
ボクシング部主将。
部団連合の命を受けて朱紗とボクシングの試合をする。
その後は朱紗と友人になり、反部団連合の同志となる。

身堂 竜馬(みどう たつま)
剣道部副主将。
部団連合のやり方に反抗し、朱紗の味方になる。
元は「ガクエン退屈男」のキャラクター。(スター制)

佐々木 剣道(ささき けんどう)
剣道部主将。
その正体は、戦国時代の無名の剣豪。
手にした武器に念動力を纏わせる「超殺人剣」の使い手。

茂坂(もさか)
通称「モサ」。
朱紗の同級生で、彼を「兄貴」と呼び、慕う。
瓜生のペンダントによって透視能力を開花させる。

黒田ミコ(くろだミコ)
通称、黒猫のミーコ。
瓜生の配下の少女。
いつの間にかモサと付き合うようになる。

青沼(あおぬま)
モヒカン刈りの不良高校生。
安村と共に雪代輪姦事件を引き起こす。

安村(やすむら)
ボクシング部部員。
不良グループの“女調達係”だったらしい。

あらすじ

*こちらは現在入手できる電子書籍版「凄ノ王 完全版」を元に書きます。

*ここから先は、思いっきりネタバレしてますので未読の方はご注意下さい。

少年マガジンまで

超能力クラブ

朱紗真悟は高校入学に当たり、中学から片思いだった雪代小百合に誘われ、超能力クラブに入部する。そこは普通の趣味サークルだったが、部長である美剣千草は本物の超能力者だった。
そして、美剣と敵対していて「破壊王」と呼ばれる生徒会長、瓜生麗と出会う。
瓜生は、彼の念の込められたペンダントを使えば、すぐに超能力者になれると言い、朱紗を自分の手下にならないかと誘うが、美剣との関係を重要視し、この誘いを断る。

雪代事件〜超能力覚醒

そんなある日、雪代に誘われ、人気の無い裏山へ行った朱紗は、雪代に告白される。
その直後、高校の不良グループ・青沼達により、朱紗は半殺しにされ、雪代は輪姦されてしまう。
二人は瓜生達によって救出されたものの、雪代は「私を捜さないで」という置き手紙だけ残して、引っ越してしまう。この出来事をきっかけに、朱紗の超能力が目覚める。

最初の変身〜第二の変身

最初は怒りに任せて暴れていたが(肉体・顔が変化して、後に“超能力の巨人”と呼ばれる)、落ち着くと、彼は以前の記憶を失い、その代わりにスポーツマンで不良であるという記憶を得る。しかも肉体は、その記憶に合わせて鍛え上げられた体に変身していた。

ワイルドな性格に変わった朱紗は応援団に喧嘩を売り、学校の部団連合(応援団と部活の総体)を敵にまわしてしまい、ボクシング部部長の合田と公開試合を行うことになってしまう。
また、最初に暴れていた時のニュースのせいで、アメリカ諜報機関の超能力者グループが来日し、朱紗の捕獲に乗り出す。
偶然、ディスコで青沼たちと再会した朱紗は雪代の記憶が目覚め、再び“超能力の巨人”に変身してしまう。また、朱紗を捕えようとしたアメリカ諜報機関の超能力者グループは、偶然にも朱紗の精神世界に閉じ込められてしまう。

安村事件〜CIA解放

記憶が戻った朱紗は青沼グループへの復讐を誓う。
応援団との件でボクシング部に呼ばれた朱紗は、そこで青沼グループの一人、安村を発見し、そこで練習試合を求める。安村に勝った朱紗は復讐を公言すると、安村はノスフェラトウと名乗る学校内のマフィアに命令されて雪代を襲ったと言う。朱紗は安村を連れてノスフェラトウのアジトに乗り込むも、ノスフェラトウのメンバーはおらず、ドラッグパーティーをする女達がいて、朱紗は麻薬入りの酒やタバコを盛られ、意識を失くす。目覚めたら安村の首吊り死体があった。
時を同じくして、朱紗の精神世界に閉じ込められていたアメリカ諜報機関の超能力者グループは、精神世界の魔物たちを倒し、現世に帰還する。
それが原因で朱紗の心は少し明るくなる。

ボクシング試合

アメリカ諜報機関の超能力者グループは“超能力の巨人”の正体は高校生くらいだと推測し、高校の英語教師として潜伏する。
ノスフェラトウのメンバーに絡まれた朱紗は「ノスフェラトウのメンバーになれば全てを教える」と言われる。
ボクシング部部長の合田との公開試合が始まるが、なぜか朱紗は昔の心に戻ってしまう。
しかし、会場に雪代の姿を見つけた朱紗は命をかけて試合に挑む。
超能力を発揮し、予知能力、瞬間移動、精神障壁、念動パンチを駆使して合田に勝利する朱紗。会場にいた雪代が去って行く。

ノスフェラトゥとの対決

試合後、完全に超能力をコントロールできるようになった朱紗は、独自でノスフェラトウに接触しようとする。街の暴走族がノスフェラトウの傘下だと知った朱紗は、殴り込みをかけるが、逆に捕まってしまう。そこで、ノスフェラトウの首領クイーンカーミラに出会った朱紗は、雪代事件の動機は朱紗の超能力を目覚めさせる為だったことを知る。雪代も一緒に捕えられていたが、美剣一族が救出に来てくれる。クイーンカーミラを追い詰めるも、その正体を知った美剣はカーミラを逃してしまう。また、雪代は行方不明になる。

剣道対決

その後の朝、目が覚めると突然、透視能力を発現した朱紗は集団の中にロボットのような者を発見する。その後すぐに視界が元に戻った朱紗は剣道部部長、佐々木剣道に試合を申し込まれる。
謎のタイムリーパーにより、戦国時代から連れてこられた佐々木剣道も超能力者だった。
お互いに念動力を込めた剣で戦う二人。
殺し合いを止めようとする外人教師に、校長を連れた部団連合会長の九頭木鋼が現れ、この学校の支配者は自分だと宣言する。それに反発して、剣道部副部長の身堂竜馬が名乗りを上げる。身堂と部団連合の小競り合いの隙をついて、勝負をつけようとする朱紗と佐々木。それを止めに入る外人教師。二人の念動力と教師のバリアのぶつかり合いで大爆発が起こる。失神する面々の中、一人機械のような音をたて動く九頭木。
入院後、超能力を失う二人と、それを吸収した朱紗。

部団連合への殴り込み

その後、身堂や下級生5人と合田で部団連合に殴り込みをかける朱紗。
射撃部を美剣にテレポーテーションで運んでもらい倒す朱紗。
空手部を合田が、剣道部を身堂が倒し、佐々木に佐々木を現代に連れてきたタイムリーパーの正体を言わせようとした時、その男が佐々木を戦国時代に飛ばし、身堂を跳ね飛ばす。
相撲部を合田と身堂で倒し、朱紗が九頭木を倒した後に駆けつけると、九頭木の正体が鉄製の人形だと判明する。

カーミラの正体

ノスフェラトウではクイーンカーミラが演説し、マンションの部屋にテレポーテーションで戻って来る。服を脱ぎカツラを取って、シャワーを浴び終わると、その姿は男へと変わっていった。そう、その姿は瓜生麗だった。
ノスフェラトウ、部団連合、全ての黒幕は瓜生麗だった。それに気付き、雪代への謝罪を求める朱紗を笑い飛ばす瓜生。雪代は瓜生の奴隷だった。朱紗と雪代との出会いも仕組まれた者だった。自分の奴隷である事を証明するため、雪代に、朱紗の前で全裸になることを要求する瓜生。ついに怒りを我慢できなくなり、“超能力の巨人”へと変身する朱紗。

魔神凄ノ王の覚醒

並行して世界各地で魔物が出現し始める。
また、宇宙ではヤマタノオロチが出現し、地球へ向かってくる。

巨大化し街を破壊し続ける魔神、凄ノ王。戦闘機や戦車の攻撃にも進化して対応し、巨大化が限界に達し、悪しき魂が肉体を離れて行く。
この悪しき魂こそが「魔神、凄ノ王」だった。
「魔神、凄ノ王」を倒すため、美剣一族は超戦艦ラン・グーンを出発させる。
地下100メートルのシェルターにいた瓜生たちは、瓜生と雪代を除き、凄ノ王の精神波動にやられ、殺し合い全滅する。天岩戸神話を思い出し、まだ希望があるかもしれないと思った瓜生と雪代は地上に出る決意をする。

魔に取り憑かれた青沼は、「魔神、凄ノ王」の魂の抜け殻である朱紗と遭遇する。

完全版コミックスによる続きの部分

朱紗は、青沼に取り憑いた魔を吹き飛ばし、青沼をネズミへと変え、「お前はそこからやり直せ」と命じる。

宇宙空間では、「魔神、凄ノ王」と戦いを繰り広げる超戦艦ラン・グーン。
火星で「時の棺」を使い「魔神、凄ノ王」を倒し、地球へと向かう。

他の朱紗一族の者の肉体と魂を取り込み、巨大化していく「英雄王スサノオウノミコト」としての朱紗真悟。
魔を取り込んだ姿となった合田を尻目に、地上に出た瓜生と雪代と遭遇する。

以上です。

感想

輪姦シーン

とにかく最初に読んだ時に衝撃を受けたのは、初版コミックス、ほぼマルマル1冊使った、ヒロイン雪代小百合の輪姦シーンです。
当時、小学校高学年だった僕達は衝撃を受けました。
さすがに挿入が分かる場面とかは無いのですが、代わりにイメージとして荒ぶる馬が描写されてました。
ちなみに、青沼が朱沙を煽るセリフで、「頂かせてもらったぜ、確かに処女だったぜ。」というものがありますが、後に漫画「バスタード」で主人公のダーク・シュナイダーが使っています。

超能力対決

合田とのボクシング対決、佐々木との剣道対決など超能力を使ったアクションで、この頃としては新しい念動を使った対決が描かれています。
念動を『気』に変えると最近の漫画でもみられるような描写ですね。

ラストシーン

「さあ、これから決戦だ!」というラストは、石川賢の漫画のファンにはお馴染みですが、この頃は珍しい方でしたので、「打ち切りかよ…」と思ってしまいました。
でも、物語で散々と悲惨な目に遭った主人公とヒロインには幸せなラストシーンを描いて欲しいと思ってしまいました。

考察

この話は日本神話の要素を取り入れながら、物語の核となる部分は同作者の「デビルマン」の話の焼き直しになっています。

以下、その点について。

主人公は大きな力を手に入れる

「デビルマン」では、
デーモン(悪魔)と合体し、そのデーモンの中でも最強と名高いアモンの力を手に入れます。
また、悪魔により好戦的な性格になります。

「凄ノ王」では
超能力に目覚めます。その力は伝説の凄ノ王です。
こちらも強くなりたいという意志から、肉体もスポーツマンのようになり、好戦的になります。

アメリカと日本の関係?

「デビルマン」では
主人公をデーモンと合体させ、悪魔との戦いに引きづり込むのは白人とのハーフの友人でした。
「凄ノ王」では
主人公の超能力を開花させるのは上級生でした。(外見は白人とのハーフのよう)

以前、永井豪は「デビルマン」を振り返ってのインタビューで、これは
第3次世界大戦の事かもしれないとおっしゃっていました。

不動明→日本

飛鳥了と神(天使)→アメリカ、

デーモン(悪魔)→中国

という関係です。

こちらの図式は「凄ノ王」では当てはめにくいですが、

朱沙真悟→日本

瓜生麗→アメリカ

までは当てはまりそうですね。

ちなみにデビルマンではサタンの方が明らかに強かったですが、凄ノ王では主人公の方が強いですね。
これもジャパン・アズ・ナンバーワンだった80年代の世相を反映しています。

予定調和の話

「デビルマン」では明らかに途中から話が走り始めました。

作者も最後を決めてから描かれていたわけではないので、誰も予想できないラストへと繋がりました。

しかし「凄ノ王」では黒幕が誰か、どんな正体なのか、最初から結末ありきで描かれていたので、そういう意味では「デビルマン」のようなカタルシスは得られないでしょう。

BL要素はなくなる

「デビルマン」ではラスト近くで、飛鳥了(サタン)自ら不動明を愛してしまったがために計画が順調ではなくなったと語っています。
サタンは天使で両性具有なので、男性でも女性でもないのですが、少年漫画にBL的要素を入れたのは、この作品が元祖だと思われます。

しかし「凄ノ王」では瓜生麗は上級生となり、日常では近くない関係となりBL要素は消滅しました。
その代わりヒロインとの恋愛要素が強くなります。(どちらもヒロインは酷い目に遭いますが‥)

80年代らしい希望のラスト

「デビルマン」が人類どころかデーモン(悪魔)も滅びて、神(天使)だけが生き残るという希望のないラストだったのに対して、「凄ノ王」は日本神話の天岩戸の説話から、主人公は蘇り、世界を救うという予感が示されて終わります。

1970年代の米ソ核戦争で世界が滅びるのではないかと思われていた時代に書かれた「デビルマン」と1980年代に書かれた「凄ノ王」の違いですね。

後記

後に最終回のラストシーンにつながる話(火巫子編)が小説雑誌「野生時代」に。

永井豪の弟さんによる小説版が角川ノベルズから刊行されました。
この小説版が綺麗に最後まで描かれています。

また、後の完全版で最終回の後の話が描かれましたが、こちらもヤマタノオロチとの戦いなどは描かれませんでした。

同作者のバイオレンスジャックで結末を描く案もあったそうです。

少年マガジンの後は断片的に続きが書かれましたが、ちゃんと結末を迎える感じではないのが、モヤモヤしますね。慎吾と小百合には幸せな結末を迎えて欲しいです。


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